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「離婚の慰謝料」を不貞行為の相手方に請求できる?(H31.2.19最高裁第三小法廷判決を受けて)①


若狹です。

 

一部報道にもありましたが、本日、珍しく夫婦関係に関することで最高裁の初判断がなされました(ヤフージャパンのトップページにもあがっていましたね)。

各社の報道及び判決文によれば、概要は以下のとおりです。汚い字と味気ない図・・・。
法律に馴染みのない方には少しややこしい事案ですのでいつにもましてカッコ内の文字が多めです。

原告男性が、元妻の不貞行為の相手方男性に「離婚をさせたことに対する」慰謝料等として500万円を支払うよう求めたところ、最高裁判所は、「そのような場合に(離婚をさせたことに対して)不貞行為の相手方(被告)が不法行為責任を負うのは、特段の事情があった場合に限られる。旨判断しました。

誤解を招きかねない部分ですが、本件は、原告の被告に対する不貞行為に対する慰謝料そのものを全て否定したものではなく、最高裁も「不貞行為を理由とする不法行為責任はともかく」と留保をし、本件における被告男性の不法行為責任の全ては否定していません。(上記図波線部分)(※後述の時効の問題を除く)

ものの本によれば、英米やヨーロッパの一部の国では「不貞行為の相手方に対する不貞行為を理由とする慰謝料」については否定する考え方も根強いようですが、日本の裁判所は一貫して肯定する考えをとっており、本件判決でもその点に変更がないことは改めて確認されています。

さて、上記のような事実関係があった際、実務上は「不貞行為に対する慰謝料」を請求するのが通例です。
推測ですが、本件原告が、「不貞行為に対する慰謝料」ではなく、「離婚をさせたことに対する慰謝料」という法律構成をとったのは、原告がA・被告間の不貞行為の事実を認識したのが平成22年5月であることから、消滅時効の問題(※慰謝料請求の消滅時効は、不貞行為の事実及び相手方を知ったときから3年です)があったからであると思われます。

・本判決の射程(特に、不貞行為を理由とする慰謝料請求における離婚の事実の位置づけ)
・「不貞行為に対する慰謝料」と「離婚をさせたことに対する慰謝料」が果たして明確に区分できるのか
・「不貞行為に対する慰謝料」の“本件事例における消滅時効の起算点”は平成22年5月となるのか平成27年2月となるのか(地裁判決・高裁判決まで読めていないのでこの事案の詳細は追えていませんが、最高裁昭和46年7月23日判決を踏まえれば、“被告による平成22年5月までの不貞行為が、原告・A間夫婦に対して決定的なダメージを与え、それが平成27年2月に離婚成立という形で顕在化した。そのときに「損害」の発生を知った。”とも考えられます。本件では、不貞行為解消後同居を継続し、子供の大学進学を期に別居したと事実認定されているので、不貞行為の事実と離婚成立とは直結しない、という判断を取ったのかな?)
・・・などなど、裁判例の集積を待たなければはっきりしない部分もありますが、本件判決自体が実務に及ぼす影響は直接的にはそこまで大きくはないのではないか、というのが現在のところの私見となります。請求側・被請求側共に、消滅時効が完成しているかどうかについて気を使う場面は増えてきそうですが。
本件判決を受けて、原告男性の立場としては、消滅時効の争点の憂いなくセーフティに請求を行うのであれば、不貞行為の事実及びその相手方を知ってから3年以内に時効中断(改正民法では「時効の更新」)のための何らかのアクションを取る必要があるでしょうね(ご相談・ご依頼はお早めに・・・)

この判決については、また近いうちに評論や判例解説等が出るでしょうから、考え直した点がありましたら追って報告したいと思います。