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性同一性障害の職員の女性用トイレの使用制限に関する判例


 生物学的な性別が男性であり、性同一性障害である旨の医師の診断を受けている公務員が、職場の女性用トイレの使用を制限されたことに関する訴訟の最高裁判決が出ました(令和5年7月11日判決)。

 この事案は、生物学な性別が男性であり、平成10年頃から女性ホルモンの投与を受けるようになり、同11年頃には性同一性障害である旨の医師の診断を受けている方が、執務している階と上下の階の女性トイレの使用が認められず、それ以外の階の女性トイレの使用を認められる処遇を受け、これについて、原則として女性トイレを自由に使用させる内容の行政措置を要求したところ、人事院が、要求は認められない旨の判定をした件について、最高裁は、上記判定は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法と判断したものです。

 上記判断の理由で述べられているのが、健康上の理由で性別適合手術を受けていないものの、女性ホルモンの投与を受けていること、性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けていること、執務階から2階以上離れた女性トイレを使用するようになったことで、トラブルが生じたことはないこと、執務階の女性トイレを使用することについて、数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたとはうかがわれないこと、4年10が月の間に女性トイレの使用について、見直しが検討されたことがうかがわれないこと、などから、女性トイレを使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮を要する他の職員の存在も確認されていないことを理由とするものです。

 注意が必要なのが、今回の最高裁判例は、不特定または多数の人が使用するトイレの使用のあり方を述べるものではないことです。今回の判決をもって、性適合手術を受けていない性同一性障害の方が、公衆トイレで女性トイレを使用できるようになるわけではない、ということです。この点については補足意見でも明確に述べられています。

 今回の判決は、職場のトイレであり、外部の人の利用が通常考えられないことや当該職員が女性ホルモンの投与を受けていること、性同一性障害である旨の医師の診断を受けていること、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される医師の診断を受けていること、実際に2階以上離れた女性トイレを利用してもトラブルのないこと、などの事情があって、このような判断になったものと考えられます。

 トランスジェンダーが自己の性自認に基づいて生活を送ることを法で一定程度保護すべきものであると考える一方で他の女性職員の違和感、羞恥心も保護すべきものであり、その利益衡量を詳細に検討を行った結果の判断だと思います。

 あくまで、今回の判例は、この事案に関するものであり、他の状況については、そのときの具体的な状況に応じて検討していなければならないものだと思います。

裁判所HP
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92191