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映画「Winny」インタビューから見る尋問テクニック


静岡の弁護士の若狹です。


“ネット史上最大の事件”を描いた「Winny」撮影の裏側を東出昌大、三浦貴大、吹越満が語る

こんなインタビュー記事を見かけました。

記事内で吹越満さん(渋いけど印象的な役柄が多い役者さんですよね。個人的には映画「冷たい熱帯魚」の店主役が印象的です。)がおっしゃっている尋問技術はまさに我々弁護士が日々民事刑事問わずに実践しているところです。役者の方って役柄をここまで研究されるのですねえ。記事内で言及されている「実践! 刑事証人尋問技術 part2: 事例から学ぶ尋問のダイヤモンドルール」は刑事民事問わずに尋問全般で役立つ本なので、私も定期的に読み返しています。

結局、「この人、絶対嘘ついているよな…」と思えるような尋問の相手であっても、「うぅ…私が嘘をついていました(涙)!申し訳ありませんでした!!」と法廷で喋ってもらうことはそもそも目指していないのですよね。そんなのはできの悪いドラマやマンガの中だけの話なので。
しかし、「ピン止め」式の尋問はこちら側の依頼者の方からは淡泊に見えるようで、「あくまで予定ですが、相手にはこんなことを聞きますよ」というメモを事前に確認してもらうと、「何で嘘つくんですか!?と強く迫ってくれないんですか?」と言われることもあります。もしそのように言われたら、この記事を読んでもらおうと思います。

◎インタビュー内で例としてあげられている浮気立証の例◎
【悪い反対尋問例】
尋問者「なんでパンツが裏返しになってるの?」
当事者「知らなかった、ウンコするときにズボンとパンツ脱ぐクセがあってさ」

【良い反対尋問例】
尋問者「今日どこかでズボン脱いだ?」
当事者「何言ってんだ、脱いでねえよ」
尋問者「パンツが裏返しになってます」「こちらからは以上です」

 

ただ、現実の世界はそんなに単純じゃないというのがややこしいながらもおもしろいところで、尋問というのは、「主尋問→反対尋問→再主尋問」という順番で行ないますので、私が尋問を受けている側の代理人であればたとえば以下のようにフォローしますかね。

【若狹フォロー尋問例①】
若狹「よく思い出してくださいね。今日一日本当にどこでも脱いでいないですか?たとえば、トイレも行っていない?」
当事者「トイレは行きました」
若狹「トイレでズボン脱がなかったですか?」
当事者「ああ、思い出しました。脱ぎましたね。」
若狹「その時に足からパンツを外しませんでしたか?」
当事者「外しました」
若狹「トイレでパンツを足から外したときに裏返しになることはなかったですか?」
当事者「考えたらありますね。私、ズボンとパンツを一緒に脱ぐクセがあるんですよ。きっと今日もそうですね。他に心当たりないですから。」

【若狹フォロー尋問例②】
若狹「今、パンツが裏返しなんですね」
当事者「はい」
若狹「今日はどこでもズボン脱いでいないんですよね」
当事者「はい、先ほど答えたとおりです。」
若狹「今履かれているパンツを履いたのはいつのことですか?」
当事者「昨日、お風呂上がってからです」
若狹「その時に裏表を確認しましたか?」
当事者「確認していなかったかもです」
若狹「履いたときの部屋の様子は?明るかった?暗かった?」
当事者「今電気が一部切れていて脱衣所が薄暗いんですよ」
若狹「今日はメガネかけていらっしゃいますが、お風呂入るときに外しますか?」
当事者「入浴時は外します」
若狹「お風呂上がりにはすぐメガネをかけますか?」
当事者「メガネが曇っちゃうのでお風呂上がりにすぐにはかけないですね」
若狹「下着を履いているときにはメガネをかけていましたか?」
当事者「かけていませんでした」
若狹「裸眼の視力はいくつですか?」
当事者「0.1ありません」
若狹「下着を履いたとき裏表はよく見えました?」
当事者「よく見えませんでした」
若狹「とすると、薄暗い中、裸眼で、よく見えないままパンツを履かれて、前日から裏返しのままだったのではないですか?」
当事者「よく見えなかったですが、きっとそうだと思います」

ですので、逆に尋問する側からは、私がこのようにフォローできないような方面の事実の「ピン止め」をあらかじめ予測して先手で押さえておかないといけないわけです。
架空の事例で長文となってもアレなのでここらでやめておきますが、パッと想定できるのは、「外出先のトイレで革靴を履かれていたのにパンツを脱ぐのですか」「あなたのタンスの写真がこちらですね。普段と変わりはないですね。全部裏表逆になることなく収納されていますね(弾劾証拠提出)」みたいなパターンでしょうか(もっと上手い例があったら教えてください笑)